いしがきひろし
1973年 大分県生まれ
2010年 写真集「in order to see」を蒼穹舎より刊行/写真展は、2000年「Life to live」(mole・四谷)/2002、03、04年「CITYWORK」(プレイスM・新宿)/2006年 「begin with the twilight」(プレイスM)/2008年「IF IT BE YOUR WILL」、「the past survive」(共に、ギャラリー蒼穹舎・新宿) など、当ギャラリーに於いても4回の写真展開催を数える。詳しくはこちら >>
かねむらおさむ
1964年 東京都生まれ
1992年「第3回ロッテルダム写真ビエンナーレ Waste Land from Now on」(オランダ・ロッテルダム)に選出/1993年 東京綜合写真専門学校研究科卒業/1996年「New Photography 12」(ニューヨーク近代美術館)にて「世界で注目される6人の写真家」の一人として選ばれる/1997年 日本写真協会 新人賞受賞、第13回東川町国際写真フェスティバル 新人作家賞受賞/2000年 第19回土門拳賞受賞。写真展、コレクションは国内外において多数。
写真集など詳しいプロフィールはこちら >>
金村修ワークショップ >>
金村修オフィシャルサイト >>
石垣裕 X 金村修

DIALOGUEは、ギャラリーにゲストを招いて、ゲスト同士またはゲストとギャラリーメンバーとの対話を配信していきます。

サードディストリクトギャラリーでは時々写真家や他ジャンルの表現をする作家が顔を合わせて、話が盛り上がると深夜〜朝方にまで及ぶことも多々あります。そういう時の刺激的な対話をより多くの人に聞いてもらえたらと思いました。

第1回目は、6月10日に当ギャラリーで四回の写真展を開催した石垣裕氏と9月に銀座のGallery Qにて企画展を控える金村修氏を招き、お二人で対談していただいたものをまとめたものです。
今回はテーマを定めない放談の形での<DIALOGUE>となりました。

那須悠介 (3rddg)

金村 この間見た桑原甲子雄さん(写真展「トーキョー・スケッチ60年」2014年4月〜 6月/世田谷
    美術館)。当たり前だけど良かったよね。

石垣 良かったですね。結構な数ありましたね。

金村 あの2.26(事件)を桑原さん自身は選んでなかったんだっていうさ。あの無頓着さって凄いね。
   歴史的事実がどうしたんだっていうさ(笑)

石垣 最初選んでたのを見てみたいですね。
   あれは(『東京昭和十一年』晶文社/1974年)結局、谷口雅さんと荒木さんとか平野甲賀さんで
   選んだ...

金村 そうそう、だから70年代の意識で見てるんだよね。
   要するに70年代っていう時代状況に即して、全共闘の運動やアナーキズムみたいなのとか、そ
   ういう2.26とかを振り返るっていうか。

石垣 そうですね。そういう問題意識って言うか視点みたいなものがあっての構成ですよね。

金村 ベタ焼き見るとさ、2.26撮った後、2.26なんて2カットか3カットじゃない?後はもう浅草の街
   なんだよね。なんか享楽的な人だなと思って(笑)。

石垣 土門拳だったら何て言うんだろうっていう話ですけど。

金村 そうだよね。土門拳だったらね。

石垣 2.26もっと撮れるだろう。これほどのモチーフを何故もっと踏み込まないんだとか言いそうで。

金村 それを2カットか3カットで、後は浅草じゃない?みたいな。

石垣 でも、だからこそっていうところもあるんですかね。桑原さんのスタンスとでも言うか。

金村 そう。だからやっぱ桑原さんがセレクションしたのだけを見てみたい。

石垣 そうですね。そういうのも見てみたかったですね。

金村 Tokyo Days(『東京長日 』 朝日ソノラマ/1978 年)にも批判的だったしね。
   あれもほら、荒木さんと谷口さんが全部選んでるから。
   何かすごく私的な写真になったって書いてあったけど。確かにちょっと心象風景的なところはあ
    るけど。

石垣 そういうものでも構成できそうな感じはありますね。

金村 何回も何回も自分の住んでるマンションからの光景を写したり。
   ああいう風にしないとまとまらないでしょう、リズム感がでないから。
   今だったらぶちまかすように出しても平気だろうけど。
   桑原さんの写真って中毒性があるからね。見終わってなんか少ないなってあるもの。

石垣 もっと見たいって感じで、もっとあるだろうって思わせますしね。

金村 桑原さんもそうだけどストリートスナップって中毒性あるんだよね。
   みんな同じって言えば同じなんだけど。どんどん見てみたいみたいなさ。
   なんかポルノ写真に似てるよ。どんどん見てみたくなるじゃない、意味なんか無いんだけどさ。

石垣 そうですね。見て何か得るかって言うと..何かを得るとか知る場合もあるだろうけど、それとは
   別にずっと見ていたいような。

金村 そう。だから芸術としては珍しいんじゃないかな?絵だったらそんなに見ていたいって思わない
   もの。マーク・ロスコを1000枚見てみたいって思わないじゃない。気が狂ってくるしさ。

石垣 最近僕も考えるんですけど、ストリートスナップもいろんな作家なり作品ありますよね。
   でも言葉にしちゃうと結局小型カメラで街をスナップショットしてるといえば全て同じな感じし
   ますよね。実際全て同じと言えるし、でもその個々の作家であるとか個々の作品を見ると、これ
   は例えば山内(道雄)さんの写真だなとか豊原(康久)さんだなとか見えてくる部分もあるじゃない
   ですか。その辺は一体何なんだろうって思いますね。

金村 確かによく見てるとその人らしさってあるんだけどさ、やっぱ匿名性なんじゃないかな。
   結局誰が撮ったっていいじゃんみたいなさ。

石垣 特にそこを強調するでなく、個性みたいな方向ではなくて...

金村 だから個性を出そうって思うなら、やっぱ編集の仕方だよね。それは一つにはあると思う。物語
   性を持たしたりとか。

石垣 その写真からどういうものを受け取らせようとするかみたいな。

金村 プリントの焼き方とかね。ただ、個性ってそんなに考えなくていいんだったら、桑原さん的なこ
   とかな。でもあの人もモダンな写真ばっかり選んでるから...

石垣 そうですね。初期の縦位置の写真なんか、縦位置が展示の最初は続きましたよね。
   やっぱりモダニズムと言うか新興写真とかあのへんの... やっぱりあの時代の人達はしっかりし
   てる。

金村 あるんじゃないかな。ただそれをうまくできなかった訳でしょう桑原さんは。だからストリート
   スナップの方に行ったんじゃないかな?できなかったのかやりたくなかったのかは分からないけ
   ど、もうちょっと流動的なものっていうか。

石垣 もっとコントロールの利かないようなものを対象とするみたいな...

金村 あとやっぱりあの人は街嫌いでしょ。浅草嫌いだと思うもん。浅草好きな人ではないよ、絶対。

石垣 確かに街の雰囲気が好きとかそういう事で撮ってるというふうには思えないですね。
   ちょっと非情な写真ではありますよね。
   午後の微笑なんてタイトルがあるからそういう印象を持ちにくいけど、今の話の流れで言うと、
   街を愛してるっていうよりは
   冷徹な眼差しなのかも知れないですね。

金村 午後の微笑だっけ?なんか小児性愛的な傾向ってあるしさ。
   ちょっとあの人の撮る子供ってヤバいんだよ。

石垣 金村さんはそもそも写真を始める前から桑原さんの写真を知ってらしゃったんですよね。

金村 写真時代に載ってたから。あの頃は写真時代ってサブカルの中では有名な本だったから。
   末井昭さんだっけ?あの人が編集してるものは、当時その前はウィークエンドスーパーっていっ
   てエロ本なんだけどエロ本じゃないみたいな

石垣 そうですね。
   荒木さんの連載あり、森山さんの連載も有り、倉田さんや北島さんも載ってたりして

金村 あれに対抗したのが流行写真で、荒木さんの代わりに深瀬さんを持ってきた。
   深瀬さん3大連載とかっていう...鈴木先生も連載してたし。

石垣 深瀬さんの3大連載って何なんですかね?

金村 一応、モノクロとカラーと日常写真で、写真時代をまんまパクってるんだけど異常なんだよそっ
   ちのほうが。この人変だなって。自分の茶碗撮ったりとか入れ歯撮ったりして。俺、あの人が新
   宿のオリンパスでやった最後の展覧会、ブクブクかな?学生時代だから見に行ったんだけど衝撃
   を受けたよね。ぶくぶくしてるだけじゃん(笑)みたいなさ。

石垣 金村さんは、桑原さんに影響を受けたって、割と公言してらっしゃると思うんですけど、どの辺
   なんでしょう?

金村 一番最初に「夢の町」(桑原甲子雄東京写真集『夢の町』晶文社/1977年)見たんだけど、あれ
   は70年代の黒テント関係にいた人達が作ってるからちょっとアナーキーに編集してるんだよね。
   ゴチャゴチャしてる感じっていうか猥雑さとかさ、そこを強調してて、そこに惹かれたかな。す
   ごいゴチャゴチャしてるなって。あの頃は写真集が構成の仕方で変わるなんて知らなかったから、
   全然ノスタルジックじゃないし。あと、ストリートスナップって面白いなって思って。俺、それ
   まで写真ってモデル写すかヌード写してるか自然を写してるようなもんだろうっていう割と芸術
   としては下位レベルの人達だなって思ってたんだけどアクチュアリティがあることできるんだなっ
   て。

 

石垣 土門拳や中平、あるいは大辻清司なんかは実作と共にかなり文章を書かれていたようですが。

金村 彼らは書きたい事があるからいいんだよ。
   俺は書きたい事ないんだよ。でも文章は書きたい。何かについて書きたいんじゃなくて、
   ずっとキーを押してたいみたいなさ。

石垣 量的には彼らに並ぶくらい書かれてますよね。
   中平卓馬のようなイデオロギー批判が中心にあるとか土門拳のようなリアリズムであるとか
   ではなく...いつか仰ってましたけど、あの時代写真家の社会的地位なんかも確立しなければ
   いけなかったということもあって。

金村 それもあるし、土門拳は共産党支持でしょう多分。あの文章といい。
   要するにあれは社会主義リアリズムだから。

石垣 社会主義になってしまうのはね…でも、結局そうなっていくような感じはありますね。

金村 それはそれで面白いんだけど。社会主義リアリズムっていうのはちゃんとやると面白いと思うけ
   ど思想と現実を一致させるなんて奇形的な運動でしょう。
   現実世界にどこまで思想が肉薄するかなんて、コミュニズムの思想が現実と一致したら奇形しか
   産まれないですよ。

石垣 そうかもしれませんね。写真に限った話ではなく。

金村 極端な形にしかならないんだよね。

石垣 ただ、そういう理念みたいなのがあってこそ、カメラを持って何かをできていた時代だったとい
   うことも言えますね。

金村 それもあるし、やっぱり土門拳は写真すごいけどね。ものをちゃんと撮るっていう以外考えてな
   いから。
   写真は手段だったんじゃない?ああいう人達にとって。ともかく記録が優先だから、写真自体が
   主張するってのは60年代の終わりから70年代くらいからでしょう。

石垣 写真についての写真であるとか...。

金村 意味と写真の関係を断ち切ろうとか、まだ土門拳は断ち切っていたわけじゃないから。
   無意識には断ち切ってるとこあるけど....桑原甲子雄さんは断ち切ってるよね。

石垣 そうですね。

金村 だから2.26を(自分のセレクトでは)外すんだよね。意識してるかどうかは分からないけど。
   我々が見るとき2.26から始まるとちょっと緊張するじゃない?「戦争か」みたいな。
   まさかその次が浅草だっていうさ(笑)

石垣 ただ、戒厳令の中を撮ったっていうところには何かあるにはあるんでしょうけど。

金村 あの人にとっての戒厳令っていうのはイベントなんだよ。
   それは多分当時の日本人が思ってたことと同じだと思う。

石垣 ちょっとしたお祭りというか...

金村 そうそう。何か皇居のほうが大変だぜ!みたいなさ。そんなもんだと思う。
   何となしにあの状況と今の日本って似てるよね。いろいろ見てると中国の悪口ばっか書いてある
   んだけど、今の日本と似てる。フィルムもなかなか手に入らないしさ(笑)

石垣 重なってくる部分ってありますね。

金村 言論統制もされるだろうし。だんだんされると思うよ。
   現にストリートスナップだと賞は取れないとかあるわけじゃない。
   例えば写真新世紀なんかは肖像権の問題とかクリアしてないと賞を与えことはできないと言って
   て、それは自動的にストリートスナップは応募するなと言ってる事と同じだからさ。ある種の選
   別をしてるわけだよね。

石垣 僕なんかが写真始めた頃は授業で三社祭行って撮ってこいみたいな時代でした。
   そいうとこから入っていって、今撮り続けていくと、どうしても考えさせられるというか、
   必要に迫られて考えざるを得ないというか…

金村 そうなんだよね。特に3.11以後写真をやる人っていうのはなんか良い存在じゃなきゃいけないっ
   てのがあるわけじゃない。元々写真って覗きだしさ下劣な行為だと思うんだよ。

石垣 非倫理的な部分も、ここまで写真が豊かになっていく原動力ではあった。

金村 森山さんにしたって女性のお尻をジーパンの上から撮ったり愛人のヌード撮ったりとか、
   普通からすればひどいことをやってるわけじゃない(笑)。

石垣 写真界が持っている森山さんとは違う見方をすれば、そういう言い方もできますね。

金村 そういうようなことが今排除されてるでしょう。

石垣 あれは森山さんだからちょっとこう...

金村 そう。森山さんだから盲目の人を撮ってもいいとかさ。石垣さんとかが同じように撮ったら怒ら
   れるわけでしょう。
   どういう政治意識でやってるか、みたいなさ(笑)。

石垣 そうですね。社会性云々とか。

金村 森山さんはそれに対してすごく守られてるんだよね。
   当然それは追求されるべきテーマなんだよね。
   別に森山さんが悪いとかって言うんじゃなくて、差別主義者とかって言うのでもなくて....
   写真家って根源的に差別的なんだよね。見てる存在だからさ。差別ってのは見ると見られるの関
   係がはっきりしていて固着化している状態だから。

石垣 そういう非対称な部分が常に付きまとうわけですよね。写真家という存在には。

金村 70年代の黒人とかはさ、そんなに見るなら見ればいいみたいな感じで強調する服を着るわけじゃ
   ない。アフロヘアにしたりとか。チリチリの頭をさらに強調してるわけだから。それまで50年
   代の黒人はストレートパーマかけてたわけだから。
   見られる見るって写真家はどうしても見られるっていう意識を持つのは難しいから、常に見てる
   わけだからそういう意味では差別的だし善というか正しい存在ではないんだよ。
   3.11でアーカイヴと言って皆さんの写真を汚れたのを洗いますと、それは正しいんだけど...。

石垣 まぁそれで喜ぶ方もたくさんいるっしゃるんだろうし...。

金村 倉石(信乃)さんと谷口(雅)さんがグラフィケーション(『GRAPHICATION 』2014年3月号/富
   士ゼロックス株式会社)の対談で面白いこと言ってたんだけど、あれは基本的に正しいけど、無
   くなるものは無くなっても良いんじゃないか。無くなる権利もあるって。あのままではすべてが
   残る。すべてを残さなきゃいけないんだみたいな、それに対して倉石さんがアーカイヴは別に正
   しいわけじゃないんだと。むしろアーカイヴって悪じゃない?あれは元々、文化人類学とかから
   始まってるわけだから。

石垣 ちょっと修正主義ではないけど...そこに行ってしまう危険性がある。

金村 あれは植民地主義的思想が入り込んでるところがあるからね。
   だから、そういうのって全然無いんだよね。今の写真家ってみんな良い人だしさ。

石垣 そうですね。そもそも権力というか非対称性みたいなものが生まれることに対して意識的に
   ならざるを得ないはずで。
   意識できたからといって、具体的に写真がどう変わるかと言うと
   分からないところですけど。
   少なくとも写真家と名乗るような存在であるならば意識的であってほしいですね。

金村 そんなに正しい存在ではないと思うんだよ。
   ある女性写真家が昔さ友達を撮らなくなったじゃない。何でかって言うと友達がみんな怒り始め
   るらしいんだよね。あんたばっか有名になってズルいとかさ。それにショックを受けたみたいな
   んだけど。友人だと思ってたから。

石垣 友人からすると搾取されてるような気持ちになっていく。

金村 でも、そうなんだよね。それはどうしてもそういう関係になっちゃうんだよ。
   ナン・ゴールディンだってもうそういうとこは撮ってないしさ。

石垣 ナン・ゴールディンは言葉で、被写体は自分の家族であるとかって、そういう関係に意識的だか
   らこそそうじゃないんだってことを主張しようとしますよね。

金村 ある女性写真家の失望ってよく分かるんだけど、写真家はそう思われるのは当たり前のことだか
   ら。学生とか友達いっぱい撮った写真持ってくるよ。面白いんだけどさ。「私たちの友情は永遠
   です」って。金が絡むと違うぜって思うけど(笑)

石垣 親しい人を撮りたいとかはないけど人間は撮りたいと思うんですよね。

金村 匿名の人間でしょ?

石垣 そうですね。もう出会わないであろう人達。もう出会わないから撮りたいわけではないけど。

金村 でも無責任さがあって良いんじゃない?付き合わなくていいんだから。
   シャッター押したらさようならみたいな。
   その感じがストリートスナップって良いなって思う。
   原美樹子さんもそうだけど、あの人も無責任じゃない?本人にそんなこと言ったら怒るんだけ
   どさ。

石垣 怒りそうですね。(笑)

金村 でも、俺あの人の写真でああいうところが一番良いと思う。
   何かすごく軽いじゃない?内面なんかより写っているものがすべてだみたいな。
   内容のない記号みたいな、からっぽの記号、シニフィエを欠いたシニフィアンのエロティシズム
   と言うか。前にここで展示やったじゃない。良かったもんね。
   あれ、フライヤーの文章も良かったね。ストリートスナップにテーマなんか無くてもいいんだっ
   て。まったくその通りなんだけど。

石垣 そうですね。テーマを持つことで見落とすものもありますしね。持たないことでいろんなものが
   掬い取れるとも言えるし。

金村 写真はテーマがあると簡単に成立するから。都写美でやってた米田知子さんは多少気になるとこ
   ろがあったかな。彼女の写真は、写真家は本質的に記録しかできないという諦念があって、その
   いさぎよさが面白いと思ったのだけれど、今回の展示は、写真は本質的に退屈だっていうことを
   本人が自覚してて展開していくなら良いけど、あの展覧会に違和感を感じたのは写真の下に文章
   を置かなかったじゃない。なんか写真だけで見せようとしてるから。
   写真が好きっていうわけじゃないから。

石垣 この場所は実はこういう場所であるとか..

金村 そうそう。キャプションは壁に貼らなきゃだめなんだよね。それが彼女のコンセプトだからさ。
   むしろ写真なんて何も写ってなくたっていいんだから。

石垣 土田さんの福島なんかはかなり強引に、写真の外側にあるはずのキャプション(地名)を画面の中
   心に入れ込んでましたね。

金村 そうだね。

石垣 あれはちょっと力業というか。

金村 フォトグラファーズ・ギャラリーでもやってたじゃない。
   そうか〜って思ったよ。

 

 

金村 フィルムとかカメラって普及したときは衝撃力あったと思う。
   デジカメだと違うわけ。フィルムが持ってる暴力性ってある。

石垣 そうですね。写真自体はすでに新しいメディアではないですが。

金村 生活に必要ななものとか、目の前にあるものとか、安いものを使うのは有効だと思う。
   多分写真はどんどん綺麗になっていくと思う。
   だって、もう新人の写真展とかもギャラリーがバックについていれば、良い額装をしてくれてる
   じゃない。なんで俺の時は良い額装してくれなかったのかなと思うんだけど。
   みんなアクリル入れてくれるんだもん。

石垣 でも、金村さんは元々額装は...横浜美術館でやったときも貼りっ放しだった(笑)。

金村 そう。あれが売りだったからね(笑)。
   やっぱり考えるわけ。自分がもし何年もやり続けるんだったら、額装とか無理なんだよ。
   アクリルなんて入れたら金かかってしょうがない。
   自分でできる最大限の経済状況を考えると、まあ貼りっ放しなんだよね。

石垣 そういうリアリティーがあったわけなんですね。

金村 今の人達っていきなり良い展覧会やるけど....例えばひとつぼ展(現ワンウォール)とか最初お金
   出してくれるからものすごく良い展示やれるけど、それをやっちゃうと君一生それをやるんだよ
   ねって見られちゃう。

石垣 次もそういうテンションを期待されますよね。

金村 当たり前だけどね。

石垣 The Whiteは皆さん展示違いますよね。
   額とか自前ですか?

金村 貼りっ放しで良いんだとか、そんな事に金使ってどうするんだとか言う。
   それで良いんじゃない。馬鹿々々しいじゃない。

石垣 作品を額装してこう見せたいっていうのがあれば自分で用意すれば良いと思いますけど。

金村 自分の写真を商品として認識するっていうのはすごく重要なことだと思うんだけど、それは
   最終的な段階だと思うんだよね。

金村 最初からそんなこと考えてさ...普通の話しだけど創作意欲が先行するというほうが...。

石垣 のめり込んでモノ作りをしていてると...

金村 そうすると周りが、それでも良いけれど、このままじゃお客様に出せないから、レストランで出
   すには、裏の山から採ってきた大根は洗いましょうみたいにね。

石垣 今はマーケットの中で活躍するにはどうしたら良いかっていう感じで、逆算して戦略的に何を
   作れば良いかとなってしまう部分もあって。

金村 誰とは言わないけど、デジカメで撮ると綺麗じゃない。で、どう汚すかっていうともう一度
   フィルムで撮ってそれでプリントして、もう一回デジカメで撮るとかね。
   中平さん達だと簡単なわけよ。フィルムをバケツにいっぱい突っ込んでガラガラやってただけで
   そんな簡単なことがさ、すごいを手間かける。
   失敗したくないってことなんだよね。一番最初のネガはオールマイティーでそれをだんだん汚し
   ていく。今時は汚すのも大変なんだ。

石垣 要するにストレートじゃなくて何かをしなければならない。

金村 そうなんだよ。昔は汚すことなんかすごく簡単だった。適当に現像すれば良かった。

石垣 デジタル写真でも操作とかの失敗はあるのだろうけど、撮ったものが傷ついたり汚れてたりって
   いうのは予め無いように作られている。

金村 そう。デジタルはそれが無いんだからそれに合わせれば良いんだから、それをフィルムみたいに
   やるにはフィルムでやれば良いものをデジタルで撮ってフィルムでやったり、フィルムで撮った
   のをデジタルでやったりとか。

石垣 屈折してるってことですよね。

金村 その屈折の意味が分かんないんだよね。

石垣 そこに何かしらのコンセプトとかがあれば....

金村 まあ分かるんだけど、デジタルで撮ってる人って手間をかけたがるんだよね。
   何故なら普通に撮っちゃうと綺麗で個別性が出ないから。でも、デジタルカメラの魅力って
   個別性が無いことでしょう。そこを選んであれ使ってるわけだから。
   かつてはフィルムも個別性は無かったんだけど、デジタルカメラが出ることによって、フィルム
   は初めて個別性があったってことが証明されたんだけど。それは多分、絵と似てると思う。それ
   まで肖像画とかは似させなきゃいけないっていうのがあったけど、写真が出てきたことによって、
   現実の模写やらなくていいんだって。

石垣 それで印象派なり抽象表現なりが進んでいくわけですね。

金村 写真や科学の光の解析方とかが出てこなかったら抽象できなかったんじゃない。

石垣 写真って外側と言うか現実にある世界を撮るわけで、社会が写ってきたりとかありますね。
   撮ってる人は社会的なこととか思ってないんだけど、写真の中に見え隠れするとか。

金村 それはあるんじゃない。どうしても現実を相手にしてるからね。すべての写真はドキュメンタ
   リーだし映画だってドキュメンタリーだよね。
   この間、黒沢清の映画....『アカルイミライ』(アップリンク/2003年公開)。ロケだから当時の
   時代がパッと見えるし。映画という虚構が現実のなかに無理矢理入り込んでいく感じがする。

 

石垣 金村さん今でもデジタルはGRで撮られているんですか?

金村 いや、今はパナソニックも両方で撮ってる。
   パナソニックは40mmだから。
   デジタルは撮るけど...あれは俺、写真だと思ってないから。

石垣 分かりやすく違いを言うと?

金村 動画の延長かな。フィルムの時はカメラのファインダーを見るじゃない。自分を没入しちゃう。
   デジタルはこうやって(液晶を)見るから冷静だし、なるべく反没入的に、自分のやってること
   とまるで違うことをやりたいっていうのかな。

石垣 モノを見てるっていう感じとは違うんですか?

金村 モノは見てないね。

石垣 最近はフォトグラファーズギャラリーで映像をやられていましたが。

金村 あれはデジカメじゃなくて、デジタルビデオカメラ。あれは静止してないし編集もしてないから。

石垣 あれは短い時間撮って繋げてるんですか?

金村 そう。難しいもんじゃないし、面白いんだけど。デジカメで静止画と動画を両方入れるっていう
   のが面白い。静止画が入るからスムーズに流れない。非効率的に進んで行く感じがする。
   動画のカメラで静止画もできるんだけど、ちょっと面倒臭い。デジカメのほうが簡単なんだよね。
   ちょっと決定的に違ってて、うまく言えないんだけど......

石垣 (デジカメだと)ちょっと決定的になるってことですか?

金村 どうでもいいものをバンバン写せる。例えばポスターのアップとか。
   そんなのフィルムではやらない。勿体ないから。
   フィルムではそのポスターがどういう環境にあるかっていう、その空間を撮るんだけど、デジカ
   メでは空間を撮らないから、平面的に撮ろうと思う。

石垣 言われてみれば確かに空間としては撮られてないですね。
   6x7なんかだと、もうちょっとこう眺め回してる感じで。

金村 あれは空間を見てるんだよ。モノだけじゃなくて空間を見てるわけで、俺の写真のうまいところ
   で、空間見てるからうまいんだよ。

石垣 どの空間にレンズを向けるかっていうことが重要なんですね。

金村 自分がシャッターチャンスだと思ったときにどう外すかが問題だから、三次元的遠近法にそのま
   ま対応している空間にはレンズを向けない。反応してるのがモノだったら、そのモノを空間の中
   でどう相対化するかというところが重要だから。
   デジカメではそんなことやってないから、まったく真逆のことをやってるんだよ。

石垣 空間が最初から問題にされていない?

金村 そう。それを相対化しないわけ。空間がないってこと。

石垣 見方としても難しいところありますね。

金村 だから両方やってると頭くらくらするよ。でも、両方やるんですよ。

石垣 それはデジタルで撮っていく中でそういう方向に行ったんですか?
   そういうことをやってみようっていう意識があって

金村 最初に100枚くらい撮ってから、空間撮るの意味ないなって。白黒でやれば良いんだから。
   それは俺できるから。

石垣 デジタルだと6x7みたいに空間を撮れないとかはあるんですか?機材の問題とかで。

金村 いや。写せるのは写せると思う。でもそれじゃもう一個の6x7じゃない。
   そんなことじゃ使う意味無いからさ。もっと違うものを....そん時俺中平さんのサーキュレーショ
   ンのプリントしてたからさ。中平さんの特に70年代の写真っていうのは、空間性がまったくなく
   て限りない平面性っていうか、切り取ってる。空も真っ暗に焼くし。

石垣 モノの裏側が無いというか...森山さんはあるけど。
   中平さんは違うんですよね。

金村 森山さんは写真家だから、完成の仕方分かってて遠近法あるんだよ。
   中平さんは遠近法をどう否定するかってことをやってたわけだから。
   手前にモノを持ってくる、ポスターやテレビ画面をそのまま再撮するというのはそういうことだ
   よね。

石垣 中平さんは対象が決まってなくて、サーキュレーションなんかは人もあったり近景も遠景もあっ
   たりしながらああなっていくのは凄いですね。

金村 そうね。あれはやっぱり凄いよね。
   展示見てみたかったね。オリジナルの。俺がプリントしてたのは一部でもっといろいろあるよ。

石垣 中平さんって、色々と凄いですよね。
   60年代のゴダールについて文章書いたり…インテリですしね。

金村 昔の映画批評で足立正生(1939年生まれ。映画監督、元革命運動家、元日本赤軍メンバー。若松
   プロダクション所属)と中平さんの対談読んだことある?面白いよ。…中平さんはね、しつこい
   よね。そういうことを皆が転向しても一人でいつまでも考え続けているんだからね。最後まで沖
   縄に行くのは中平さんだけだし。記憶無くした後も…10年前だけど、沖縄のシンポジウム( 東
   松照明展「沖縄マンダラ」記念シンポジウム/ 2002年7月荒木経惟/東松照明/中平卓馬/森山
   大道/港千尋)で噛みついたりとか。

石垣 そこには何か抜き差しならないものがあるんでしょうね。

金村 ああゆうのが写真家だなぁって思うよね。まぁ、どんなのが写真家かなんてわからないけど…

石垣 東松照明も晩年は長崎と沖縄に居ましたね。

金村 ポストモダニズム以後写真は対象と関係ないんだよ。
   でも、関係あるんだよ。そこが写真のアンビバレントなところで。

石垣 どうでも良いんだけど、どうでも良くないって(笑)

金村 どうでも良くないものに拘束されてるんだよ。
   そこはやっぱり辛いんだけどしょうがないんだよ。

石垣 そこですよね。どうでも良いとどうでも良くないが同じ位相に無いのかも知れないけど...

金村 矛盾した言い方が写真には出てしまうんだよ。
   再現なんだけど再現じゃないみたいな。

石垣 ウィノグランドも写真は現実ではないんだ、別の何かだ、と言ってるけど、ベトナム戦争の影響
   であったりとか当時のアメリカ社会の状況を克明に足繁く写してますもんね。

金村 そう。ここまで写っているディテールというのは現実では見えないんだけどね。
   現実と現実でないことと両方出るんだよね。
   矛盾したことが批判されずに出るっていうのが写真の面白いところで。
   感情じゃないんだって言いながら、感情も出るしさ。
   だから写真とは何かって言っちゃうのが一番マズい言説なんじゃない?

石垣 言い切ってしまいたい、というのがあるにせよ、言ってしまうことで写真が写真でなくなるよ
   うな...

金村 矛盾しないことを言う人っているじゃない?
   矛盾しないと面白くないんだよ。何で矛盾できないんだろうって。
   俺なんか写真の匿名性について語ったりするんだけど、大阪とかで「金村さんそんなこと言えへ
   んやないですか」って。まあそうなんだけどさ。でも矛盾を抱えちゃうんだよね。

石垣 私も自分では徹底的に形式的にやるっていうのも一つあるし、固有性もやっぱり切れないんだろ
   うというのはあります。

金村 ある感情をあそこまで切ってる小津安二郎とかって、ものすごい感情を持ってるとこあるし。
   矛盾してるっていうのがちゃんと両方出るのが一番正しいんじゃないかな?
   どっちかじゃ駄目なんだよ。ルイス・ボルツとか両方出てると思うんだよ。

石垣 金村さんはボルツから影響を受けたりとかしましたか?

金村 うん。川崎市民ミュージアムでやった時(「ルイス・ボルツ: 法則: LEWIS BALTZ: RULE
   WITHOUT EXCEPTION」1992年)、あの一番高いところに写真飾ってあったからね。
   見れないんだよ。写真展って見えなくてもいいんだって。(笑)
   日吉(東京綜合写真専門学校)に入ったばっかの頃だったから。ちょっとびっくりした。
   写真ってもっと保守的なメディアだと思ってたから。俺は音楽やめて入ってるから、負け犬的っ
   て言うのかな?人が何かやってるのを写させてもらいましょう。それで充分でみたいなさ。
   なのにボルツは見えないなら見なくて結構ですでしょう。なんだかそれにびっくりした。
   見せない、見えなくていいって凄いじゃん。
   
石垣 ボルツもストレートな写真からだんだん変わっていって、「ニューポートの死」では壁面にも文
   章があって大量に書かれてて、金村さんとは違いますけど、ボルツはイメージが後退して文章が
   前面に出てくる。
   金村さんも写真があって今、文章が大量に発生してきてる状況ですが?

金村 そうだね。ボルツほど勇気は無いけど。