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石垣裕 X 金村修 DIALOGUEは、ギャラリーにゲストを招いて、ゲスト同士またはゲストとギャラリーメンバーとの対話を配信していきます。 サードディストリクトギャラリーでは時々写真家や他ジャンルの表現をする作家が顔を合わせて、話が盛り上がると深夜〜朝方にまで及ぶことも多々あります。そういう時の刺激的な対話をより多くの人に聞いてもらえたらと思いました。 第1回目は、6月10日に当ギャラリーで四回の写真展を開催した石垣裕氏と9月に銀座のGallery Qにて企画展を控える金村修氏を招き、お二人で対談していただいたものをまとめたものです。
金村 この間見た桑原甲子雄さん(写真展「トーキョー・スケッチ60年」2014年4月〜 6月/世田谷 石垣 良かったですね。結構な数ありましたね。 金村 あの2.26(事件)を桑原さん自身は選んでなかったんだっていうさ。あの無頓着さって凄いね。 石垣 最初選んでたのを見てみたいですね。 金村 そうそう、だから70年代の意識で見てるんだよね。 石垣 そうですね。そういう問題意識って言うか視点みたいなものがあっての構成ですよね。 金村 ベタ焼き見るとさ、2.26撮った後、2.26なんて2カットか3カットじゃない?後はもう浅草の街 石垣 土門拳だったら何て言うんだろうっていう話ですけど。 金村 そうだよね。土門拳だったらね。 石垣 2.26もっと撮れるだろう。これほどのモチーフを何故もっと踏み込まないんだとか言いそうで。 金村 それを2カットか3カットで、後は浅草じゃない?みたいな。 石垣 でも、だからこそっていうところもあるんですかね。桑原さんのスタンスとでも言うか。 金村 そう。だからやっぱ桑原さんがセレクションしたのだけを見てみたい。 石垣 そうですね。そういうのも見てみたかったですね。 金村 Tokyo Days(『東京長日 』 朝日ソノラマ/1978 年)にも批判的だったしね。 石垣 そういうものでも構成できそうな感じはありますね。 金村 何回も何回も自分の住んでるマンションからの光景を写したり。 石垣 もっと見たいって感じで、もっとあるだろうって思わせますしね。 金村 桑原さんもそうだけどストリートスナップって中毒性あるんだよね。 石垣 そうですね。見て何か得るかって言うと..何かを得るとか知る場合もあるだろうけど、それとは 金村 そう。だから芸術としては珍しいんじゃないかな?絵だったらそんなに見ていたいって思わない 石垣 最近僕も考えるんですけど、ストリートスナップもいろんな作家なり作品ありますよね。 金村 確かによく見てるとその人らしさってあるんだけどさ、やっぱ匿名性なんじゃないかな。 石垣 特にそこを強調するでなく、個性みたいな方向ではなくて... 金村 だから個性を出そうって思うなら、やっぱ編集の仕方だよね。それは一つにはあると思う。物語 石垣 その写真からどういうものを受け取らせようとするかみたいな。 金村 プリントの焼き方とかね。ただ、個性ってそんなに考えなくていいんだったら、桑原さん的なこ 石垣 そうですね。初期の縦位置の写真なんか、縦位置が展示の最初は続きましたよね。 金村 あるんじゃないかな。ただそれをうまくできなかった訳でしょう桑原さんは。だからストリート 石垣 もっとコントロールの利かないようなものを対象とするみたいな... 金村 あとやっぱりあの人は街嫌いでしょ。浅草嫌いだと思うもん。浅草好きな人ではないよ、絶対。 石垣 確かに街の雰囲気が好きとかそういう事で撮ってるというふうには思えないですね。 金村 午後の微笑だっけ?なんか小児性愛的な傾向ってあるしさ。 石垣 金村さんはそもそも写真を始める前から桑原さんの写真を知ってらしゃったんですよね。 金村 写真時代に載ってたから。あの頃は写真時代ってサブカルの中では有名な本だったから。 石垣 そうですね。 金村 あれに対抗したのが流行写真で、荒木さんの代わりに深瀬さんを持ってきた。 石垣 深瀬さんの3大連載って何なんですかね? 金村 一応、モノクロとカラーと日常写真で、写真時代をまんまパクってるんだけど異常なんだよそっ 石垣 金村さんは、桑原さんに影響を受けたって、割と公言してらっしゃると思うんですけど、どの辺 金村 一番最初に「夢の町」(桑原甲子雄東京写真集『夢の町』晶文社/1977年)見たんだけど、あれ
石垣 土門拳や中平、あるいは大辻清司なんかは実作と共にかなり文章を書かれていたようですが。 金村 彼らは書きたい事があるからいいんだよ。 石垣 量的には彼らに並ぶくらい書かれてますよね。 金村 それもあるし、土門拳は共産党支持でしょう多分。あの文章といい。 石垣 社会主義になってしまうのはね…でも、結局そうなっていくような感じはありますね。 金村 それはそれで面白いんだけど。社会主義リアリズムっていうのはちゃんとやると面白いと思うけ 石垣 そうかもしれませんね。写真に限った話ではなく。 金村 極端な形にしかならないんだよね。 石垣 ただ、そういう理念みたいなのがあってこそ、カメラを持って何かをできていた時代だったとい 金村 それもあるし、やっぱり土門拳は写真すごいけどね。ものをちゃんと撮るっていう以外考えてな 石垣 写真についての写真であるとか...。 金村 意味と写真の関係を断ち切ろうとか、まだ土門拳は断ち切っていたわけじゃないから。 石垣 そうですね。 金村 だから2.26を(自分のセレクトでは)外すんだよね。意識してるかどうかは分からないけど。 石垣 ただ、戒厳令の中を撮ったっていうところには何かあるにはあるんでしょうけど。 金村 あの人にとっての戒厳令っていうのはイベントなんだよ。 石垣 ちょっとしたお祭りというか... 金村 そうそう。何か皇居のほうが大変だぜ!みたいなさ。そんなもんだと思う。 石垣 重なってくる部分ってありますね。 金村 言論統制もされるだろうし。だんだんされると思うよ。 石垣 僕なんかが写真始めた頃は授業で三社祭行って撮ってこいみたいな時代でした。 金村 そうなんだよね。特に3.11以後写真をやる人っていうのはなんか良い存在じゃなきゃいけないっ 石垣 非倫理的な部分も、ここまで写真が豊かになっていく原動力ではあった。 金村 森山さんにしたって女性のお尻をジーパンの上から撮ったり愛人のヌード撮ったりとか、 石垣 写真界が持っている森山さんとは違う見方をすれば、そういう言い方もできますね。 金村 そういうようなことが今排除されてるでしょう。 石垣 あれは森山さんだからちょっとこう... 金村 そう。森山さんだから盲目の人を撮ってもいいとかさ。石垣さんとかが同じように撮ったら怒ら 石垣 そうですね。社会性云々とか。 金村 森山さんはそれに対してすごく守られてるんだよね。 石垣 そういう非対称な部分が常に付きまとうわけですよね。写真家という存在には。 金村 70年代の黒人とかはさ、そんなに見るなら見ればいいみたいな感じで強調する服を着るわけじゃ 石垣 まぁそれで喜ぶ方もたくさんいるっしゃるんだろうし...。 金村 倉石(信乃)さんと谷口(雅)さんがグラフィケーション(『GRAPHICATION 』2014年3月号/富 石垣 ちょっと修正主義ではないけど...そこに行ってしまう危険性がある。 金村 あれは植民地主義的思想が入り込んでるところがあるからね。 石垣 そうですね。そもそも権力というか非対称性みたいなものが生まれることに対して意識的に 金村 そんなに正しい存在ではないと思うんだよ。 石垣 友人からすると搾取されてるような気持ちになっていく。 金村 でも、そうなんだよね。それはどうしてもそういう関係になっちゃうんだよ。 石垣 ナン・ゴールディンは言葉で、被写体は自分の家族であるとかって、そういう関係に意識的だか 金村 ある女性写真家の失望ってよく分かるんだけど、写真家はそう思われるのは当たり前のことだか 石垣 親しい人を撮りたいとかはないけど人間は撮りたいと思うんですよね。 金村 匿名の人間でしょ? 石垣 そうですね。もう出会わないであろう人達。もう出会わないから撮りたいわけではないけど。 金村 でも無責任さがあって良いんじゃない?付き合わなくていいんだから。 石垣 怒りそうですね。(笑) 金村 でも、俺あの人の写真でああいうところが一番良いと思う。 石垣 そうですね。テーマを持つことで見落とすものもありますしね。持たないことでいろんなものが 金村 写真はテーマがあると簡単に成立するから。都写美でやってた米田知子さんは多少気になるとこ 石垣 この場所は実はこういう場所であるとか.. 金村 そうそう。キャプションは壁に貼らなきゃだめなんだよね。それが彼女のコンセプトだからさ。 石垣 土田さんの福島なんかはかなり強引に、写真の外側にあるはずのキャプション(地名)を画面の中 金村 そうだね。 石垣 あれはちょっと力業というか。 金村 フォトグラファーズ・ギャラリーでもやってたじゃない。
金村 フィルムとかカメラって普及したときは衝撃力あったと思う。 石垣 そうですね。写真自体はすでに新しいメディアではないですが。 金村 生活に必要ななものとか、目の前にあるものとか、安いものを使うのは有効だと思う。 石垣 でも、金村さんは元々額装は...横浜美術館でやったときも貼りっ放しだった(笑)。 金村 そう。あれが売りだったからね(笑)。 石垣 そういうリアリティーがあったわけなんですね。 金村 今の人達っていきなり良い展覧会やるけど....例えばひとつぼ展(現ワンウォール)とか最初お金 石垣 次もそういうテンションを期待されますよね。 金村 当たり前だけどね。 石垣 The Whiteは皆さん展示違いますよね。 金村 貼りっ放しで良いんだとか、そんな事に金使ってどうするんだとか言う。 石垣 作品を額装してこう見せたいっていうのがあれば自分で用意すれば良いと思いますけど。 金村 自分の写真を商品として認識するっていうのはすごく重要なことだと思うんだけど、それは 金村 最初からそんなこと考えてさ...普通の話しだけど創作意欲が先行するというほうが...。 石垣 のめり込んでモノ作りをしていてると... 金村 そうすると周りが、それでも良いけれど、このままじゃお客様に出せないから、レストランで出 石垣 今はマーケットの中で活躍するにはどうしたら良いかっていう感じで、逆算して戦略的に何を 金村 誰とは言わないけど、デジカメで撮ると綺麗じゃない。で、どう汚すかっていうともう一度 石垣 要するにストレートじゃなくて何かをしなければならない。 金村 そうなんだよ。昔は汚すことなんかすごく簡単だった。適当に現像すれば良かった。 石垣 デジタル写真でも操作とかの失敗はあるのだろうけど、撮ったものが傷ついたり汚れてたりって 金村 そう。デジタルはそれが無いんだからそれに合わせれば良いんだから、それをフィルムみたいに 石垣 屈折してるってことですよね。 金村 その屈折の意味が分かんないんだよね。 石垣 そこに何かしらのコンセプトとかがあれば.... 金村 まあ分かるんだけど、デジタルで撮ってる人って手間をかけたがるんだよね。 石垣 それで印象派なり抽象表現なりが進んでいくわけですね。 金村 写真や科学の光の解析方とかが出てこなかったら抽象できなかったんじゃない。 石垣 写真って外側と言うか現実にある世界を撮るわけで、社会が写ってきたりとかありますね。 金村 それはあるんじゃない。どうしても現実を相手にしてるからね。すべての写真はドキュメンタ
石垣 金村さん今でもデジタルはGRで撮られているんですか? 金村 いや、今はパナソニックも両方で撮ってる。 石垣 分かりやすく違いを言うと? 金村 動画の延長かな。フィルムの時はカメラのファインダーを見るじゃない。自分を没入しちゃう。 石垣 モノを見てるっていう感じとは違うんですか? 金村 モノは見てないね。 石垣 最近はフォトグラファーズギャラリーで映像をやられていましたが。 金村 あれはデジカメじゃなくて、デジタルビデオカメラ。あれは静止してないし編集もしてないから。 石垣 あれは短い時間撮って繋げてるんですか? 金村 そう。難しいもんじゃないし、面白いんだけど。デジカメで静止画と動画を両方入れるっていう 石垣 (デジカメだと)ちょっと決定的になるってことですか? 金村 どうでもいいものをバンバン写せる。例えばポスターのアップとか。 石垣 言われてみれば確かに空間としては撮られてないですね。 金村 あれは空間を見てるんだよ。モノだけじゃなくて空間を見てるわけで、俺の写真のうまいところ 石垣 どの空間にレンズを向けるかっていうことが重要なんですね。 金村 自分がシャッターチャンスだと思ったときにどう外すかが問題だから、三次元的遠近法にそのま 石垣 空間が最初から問題にされていない? 金村 そう。それを相対化しないわけ。空間がないってこと。 石垣 見方としても難しいところありますね。 金村 だから両方やってると頭くらくらするよ。でも、両方やるんですよ。 石垣 それはデジタルで撮っていく中でそういう方向に行ったんですか? 金村 最初に100枚くらい撮ってから、空間撮るの意味ないなって。白黒でやれば良いんだから。 石垣 デジタルだと6x7みたいに空間を撮れないとかはあるんですか?機材の問題とかで。 金村 いや。写せるのは写せると思う。でもそれじゃもう一個の6x7じゃない。 石垣 モノの裏側が無いというか...森山さんはあるけど。 金村 森山さんは写真家だから、完成の仕方分かってて遠近法あるんだよ。 石垣 中平さんは対象が決まってなくて、サーキュレーションなんかは人もあったり近景も遠景もあっ 金村 そうね。あれはやっぱり凄いよね。 石垣 中平さんって、色々と凄いですよね。 金村 昔の映画批評で足立正生(1939年生まれ。映画監督、元革命運動家、元日本赤軍メンバー。若松 石垣 そこには何か抜き差しならないものがあるんでしょうね。 金村 ああゆうのが写真家だなぁって思うよね。まぁ、どんなのが写真家かなんてわからないけど… 石垣 東松照明も晩年は長崎と沖縄に居ましたね。 金村 ポストモダニズム以後写真は対象と関係ないんだよ。 石垣 どうでも良いんだけど、どうでも良くないって(笑) 金村 どうでも良くないものに拘束されてるんだよ。 石垣 そこですよね。どうでも良いとどうでも良くないが同じ位相に無いのかも知れないけど... 金村 矛盾した言い方が写真には出てしまうんだよ。 石垣 ウィノグランドも写真は現実ではないんだ、別の何かだ、と言ってるけど、ベトナム戦争の影響 金村 そう。ここまで写っているディテールというのは現実では見えないんだけどね。 石垣 言い切ってしまいたい、というのがあるにせよ、言ってしまうことで写真が写真でなくなるよ 金村 矛盾しないことを言う人っているじゃない? 石垣 私も自分では徹底的に形式的にやるっていうのも一つあるし、固有性もやっぱり切れないんだろ 金村 ある感情をあそこまで切ってる小津安二郎とかって、ものすごい感情を持ってるとこあるし。 石垣 金村さんはボルツから影響を受けたりとかしましたか? 金村 うん。川崎市民ミュージアムでやった時(「ルイス・ボルツ: 法則: LEWIS BALTZ: RULE 金村 そうだね。ボルツほど勇気は無いけど。 |