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#41

2010.6.4 - 6.13
原美樹子 Hara mikiko

Blind Letter
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6×6判 カラー 11×14in. 30枚
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Blind Letter


息子が今より小さい頃
一緒に遊んでほしい子を 叩いたり 殴ったりしていた
それを制しながら
自分が小学生の頃 先生の気をひきたくて
その先生に噛みついていたことを思い出した


動機と行為と あたまと身体と 内と外と 自分と他人と


ずれる
ねじれる
こんがらがる


そんな思いと
古くて長いおつきあい



原 美樹子




七里圭・関連リンク

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原美樹子・関連リンク

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忘れかけの記憶というか、消えていく夢というか。そういったものを写し取ることができたなら、それは、原美樹子さんの写真にとても似ているのではないか、と思いました。近くで見ているのに、遠い印象。鮮明だけど、おぼろな光景。確かにリアルに在ったことが、何か、幻を見せられているようで、そわそわしました。この不思議な実在感。やはり、失われる瞬間が、失われつつ凝固したと考えるしかない。写真の中の人々がみな、どことなく虚ろに見えるのも、ある感情が湧きおこり枯れていった、余韻なのかもしれません。

七里圭(映画監督・脚本家)

しちりけい・略歴

1967年生まれ。早大卒。高橋洋らがいたシネマ研究会に所属し、在学中から映画の現場で働き始める。約十年間、廣木隆一、鎮西尚一、西山洋一らの助監督を経験し、監督及び脚本家となる。2004年、山本直樹原作の『のんきな姉さん』、短編『夢で逢えたら』で、劇場デビュー。映画以外にも、室内楽団の生演奏付き映像の演出や、TBS「世界遺産」の構成など、その活動は多岐に渡る。脚本作は、『犬と歩けば チロリとタムラ』(篠崎誠監督)、『ラマン』(廣木隆一監督)など。また近作には美術館製作のアート映画『ホッテントットエプロン-スケッチ』や都内で3年目、7度のアンコール上映となった『眠り姫』(原作/山本直樹、声/つぐみ、西島秀俊)、渡辺淳一原作の『マリッジリング』がある。




「宛名のない手紙 −原美樹子の写真−
松田貴子  

原美樹子は'96年の初個展以降、国内外のグループ展や個展で作品を発表してきた写真家である。今回は「そのままのポートレートを見たい。」というギャラリー企画の連続展に参加する形で、2年振りの個展となった。

「Blind Letter」と題されたこの展覧会では、同一サイズの写真が横一列に展示されていた。原は一貫して6×6のフォーマットで制作を続けているが、安定性が高いはずの正方形のフレームの内部は、騒がしく揺らいでいる。構図は無造作に傾き、被写体との距離も一定ではない。この「揺れ」はしかし、意図的に作られたものではない。

原が使用するイコンタというクラッシックカメラは、構造上の素朴さ故にノー・ファインダーでの撮影が必要とされる。偶発的な画角はそのためであるが、ノー・ファインダーを乱暴な撮影手法と決めつけるのは誤解である。それは<ファインダー越しに見ていない>ということであって、<被写体を見ていない>訳ではないのだ。むしろ、思う存分対象を見つめることができる。ファインダーを覗いて構図を整えることに腐心する者よりも、原は本来的に対象を見ていると言える。

デビュー以来、この写真家がレンズを向けるのは、街の光景、身近な人々といった日常的な要素であり、ぼんやりと静止する女性や無防備な子供の姿が繰返し捉えられている。原にとって、撮影行為は生きていることの同心円上にあるのであって、撮影の為に自らに縁のない場所まで出かけていくことはない。自らがリアルに感じられることが唯一のテーマであり、対象となるべきものは、当り前に生きる時間の中にあるからだ。閉鎖的で刹那的とも思えるその作品に対しては、はかなさへの愛着や私探しといった解釈は適当ではない。なぜなら、カメラで顔を覆うことなく、直に対象をまなざす原の写真には、現実の中にしっかりと自らを存在させ、その上で見る行為を行う強固な意思が現れているからだ。写真の中に眉をひそめてこちらを見返す女性がいるならば、写真家はその視線を直に受け取っているはずだ。

原の作品に表れているものを、言葉に置き換えることは難しい。この写真家が自らの現実を意味づけることから周到に逃れているためだ。言葉が「意味」である以前に「音」である様に、原美樹子の写真は解釈の領域に届く前に見る者の内部に落ちて響く。

『アサヒカメラ』2010年8月号「展評'10」より


まつだたかこ・略歴


早稲田大学第一文学部美術史学専修卒業。
近著は「〈見ること〉の問題」(『写真空間4』所収、青弓社、2010年)等。
日本写真芸術専門学校、早稲田大学川口芸術学校にて写真史を担当。

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