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#18

2009.9.12 - 9.23
原芳市 Hara yoshiichi

常世の虫

35mm モノクロ 10×12in. 30枚


はらよしいち 略歴のページ

 

 日本最古の宗教運動といわれる『常世の虫』は、『日本書紀』皇極天皇3年、駿河の国不尽河(富士川)辺りで興ったと書かれています。それは、蚕に似た虫だったそうです。神として奉り崇拝し、踊ったといいます。
 ぼくは、人は死して虫に姿を変えその命を灯し続けるという思想にも魅了され、この数年、虫を撮影するようになりました。虫たちがあたかも人の変容であるごとくに思え、この世の世界と交信し、何かの予言を伝えているように見て取れたりもしました。
 『常世の虫』は、いつ終わってもおかしくない自己の命の伝承です。ぼくの余禄の人生といったら叱られてしまいそうだけど、残りの命を燃焼させるに充分な思想のように思えて来るのでした。大仰にいってしまえば、ぼくにとっての道標であった気がしてなりません。写し撮った写真を眺めていると、ふと、えにしの人々の敬い、慈しみ、拝み踊る姿が浮かんで来るような気がしてならないのです。

原 芳市


 

以下のテキストは会期中に掲示したものです。
展示と同様に改行無しで表示します。
(3rddg)


◎地球上に生息する生き物の70パーセントが昆虫であり、知られている昆虫の種目は80億種、未知の種目を合わせれば100億種、あるいは150億種存在するともいわれています◎ぼくが、『常世の虫』という言葉に、はじめて出会ったのは、20年ほど前のことでした◎「広辞苑」には、ー常世の神の正体とされた神変不思議の力を持つ虫ーとありました◎そしてぼくは、すこしづつ日常の中で出会う虫たちに、シャッターを切るようになりました◎『常世の虫』は、『日本書紀』の中に書かれた日本最古の宗教運動だったことも知ったのでした◎『日本書紀』皇極天皇3年、駿河の国の不尽河の辺りで興ったそうです。蚕に似た虫だったと記されています◎「こは常世の神なりこの神に祭らば、富と寿とを致さむ。・・・常世の神に祭らば、貧しき人は富を致し老人は少きに還らん。」とあります◎村人は、『常世の虫』を崇め、慈しみ、拝み、歌い、舞っていたとあります◎虫を撮影し、現代のヒトやモノ、街を撮影していると、何だか、ぼくは、不思議な気持ちになっていることに気付くのでした◎ぼくは、延々と連なる命というようなものを、小さな虫たちを通して知らされているのだ、と思うのでした◎精霊というようなもの、不思議というようなもの、神秘というようなもの、そうしたものを彼たちは持っている、と実感するのでした◎虫たちのある種の予言が、ぼくに語りかけてくるようでもありました◎ぼくは、ふと、その時代にタイム・スリップして、踊りを踊って、『常世の虫』を拝んでいるぼく自身を想像するばかりです。

原芳市

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