企画/新メンバー連続写真展・第1弾!
2013.1.15 - 1.27
関薫 Seki kaoru ハンミョウ
35mm モノクロ 10×12in. 23枚
せきかおる・略歴 >>
図鑑に載っていたそれは色鮮やかで、何とも言えぬ独特の模様を持つ虫だった。特徴の一つである、上体を持ち上げて立つ姿は勇壮でカッコよく見えた。
『ハンミョウは山道などで会うと、道の少し先へと飛んで逃げ、近づくとまた少し先 へと逃げるということを繰り返します。その様子がまるで道案内をしているようなことから 別名「ミチオシエ」とも言います』
小さい頃から私の中でハンミョウは一度は出会ってみたい虫ベスト1だった。あれから約20年、念願のハンミョウに出くわした。
ある夏、家の前の道を歩いていると足元から一匹の虫が飛び立った。まだこの時点でそれは「ただの黒っぽい羽虫」という認識でしかなかった。別段気にも止めていなかったその虫は2〜3m先に着地し、近づくとまた2〜3m先へと飛んだ。
その様子を見ていて、不意に全身に衝撃が走った。と同時に、はじめに足元から飛び立つ瞬間の虫の映像がフラッシュバックした。
あの色彩が記憶の端に滲んでいた。
雑にただ黒っぽく記録されていただけの部分が瞬時に、鮮やかに色づけられた。
だがその「ホンモノ」の体長が私に違和感を覚えさせた。
というのも、子供の頃夢想していたそれとはかなりスケールが違っていたからだ。あとで調べてわかったことだが、日本最大級でも20mm程だという。3倍を想っていた私は少なからずショックを受けた。
“読み返すたびにその魅力が生き返る美しい詩句とは異なり、《定着したイマージュ》はその新鮮さを失う”とヴァレリーは言う。あるいはプルーストは、過去の記憶を蝶にたとえ、触れるたびに翅を傷つけ壊す危険があると言う。
私の記憶の中には3種類のハンミョウが棲んでいる。
子供の頃から夢想し続けてきた、大きな体躯を持つ色鮮やかなもの。記憶が塗り替えられる前に、頭の中で生まれた素早いただの黒っぽい羽虫。色鮮やかで道案内をしてくれる小さな本物。
これらはまだ定着されきっていない新鮮なままの記憶なのだろうか。それとも何度も触れられ、そうとは気づいていないだけで既にボロボロに壊れてしまっている、はじめとはあきらかに違うものとなっている記憶なのだろうか。
いずれにせよ確かなことは、いまだ私の記憶の中では3匹が鮮やかに躍動しているということだ。
関薫
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