まだ春遠い冬の終わりの佐渡へ行った。
私はフェリーの甲板で波に揺られながら幼い頃に一度行った佐渡の記憶をたどっていたが、海水が透明だった事しか憶えていない。

両津港、曇り空。
ひと一人へこませるくらい簡単な分厚い何層にも重なったその雲は佐渡の本当の姿を包み隠している様な気にさえさせる。 冬に来るもんじゃないと少し後悔しながら、とりあえず歩いてみた。

古びた民家、イカ釣り漁船、軒先に干してある魚や大根、 放置されたロープ、破れた網、背虫の老婆、白髪の老父、 洗濯物、路地、商店街、ホテル、港、湖、山、海・・・

雲の隙間をぬって入って行く様に。
あせっては失敗する。
だんだんとが佐渡にはちょうどいい。

そうして、これが今の私の目に映った佐渡。
どうってこともなく、当たり前にそこにあった。

宮島折恵