2019.9.3 - 9.15
佐東怜 Sato lay
不在証明
35mm カラー 11×14in. 25枚
さとうれい・略歴 >>
ぐるぐると螺旋階段を降りて行くように毎日が過ぎていく。砂漠の縁に立って茫漠たる風景を眺める時、そこに確かな意味や答えを見出すことは至難の業だ。ただ風は頬を撫で髪を揺らすばかりだ。
養母が晩年幾度となく語った思い出はまことに奇妙なものだ。まだ幼い少女だった養母は真夜中に大人の背丈ほどもある石垣の上にひとり腰かけていたという。何故そんな場所にいたのか判然とはしない、ただただ心細く声を出すことも出来ずに、ふと暗闇に手をかざすと、それは真っ赤に燃えるように見えたと言う。
人の生死がその人が確かに存在した証であるならば、私たちは記憶という情報の中でしか生きられない。そこにおいては真実も虚構もイコールで結ばれている。そもそも私たちは何故この世界にいるのか。誰がいて、誰がいないのか。似て非なるものが世界を埋め尽くしていく。そうして他者の存在の中に自らの存在を確認しようと躍起になるのだ。
だから気をつけていないと自らの不在を証明してしまうかもしれない。ふいに。呆気なく。消えてなくなりたい、なんて考えるその前に。
佐東怜 |