2022.9.6 - 9.18
宮沢豪 Miyazawa tsuyoshi
影を撮む
35mm、6×6判、4×5in.判 カラー タイプCプリント
11×14in. 2枚、16×20in. 10枚
35mm モノクロ ゼラチンシルバープリント
530×810mm 6枚
みやざわつよし・略歴 >>
西井一夫さんの思い出
書くことが無いので西井さんの事を書こうと思う。
最初は、尾仲浩二さんに「日付のある写真論」をお前らはこれを読むべきである、と貸してもらって、関美比古君と回し読みしたのが著作との出会いだった。2人ともその面白さにえらく興奮して読んだ気がする。
断定調の独特な文体はある種痛快な感じで、写真の持つ得体の知れない(つまり、自分らでは言語化出来なかった)魅力をズバズバと言い当てられているようで、引き込まれるようにぐいぐいと読ませるのだった。
それからしばらくして、やはり尾仲さんに連れて行かれたゴールデン街の「こどじ」で、本人に紹介される事となる。
卒論が一人は中平卓馬論、もう一人は19世紀フランスの写真史がテーマだった若者達を「変わった奴らだね。」と気に入ってくれて、酒を奢ってもらった。
西井さんの酒の飲み方はいわゆるからみ酒で、だれかれ構わずよく喧嘩していたし「バーカ」が口癖であった。
左手の人差し指を激しく突き出してグラスをつかむスタイルは、「だからお前はダメなんだ」と指弾されているようで、変な威圧感があったのを覚えている。
そうこうするうちに、「こどじ」のマダムである小野重子さんのありがたい口利きもあって、関君は毎日新聞社の出版写真部に見習いカメラマンとして、僕は西井さんの下で、同じ出版写真部内にある暗室でプリンターとして働く事となった。
大量の古いネガからプリントをおこす仕事で、文字通り地味で暗い作業に正直辛いと思うこともあったが、今思えばこの時の経験がプリント技術の習得にものすごく役立っていて、毎日と西井さんとこどじのお姉さんには感謝しても感謝しきれないと思うばかりだ。
また酒の話だが、ある時いつものようにゴールデン街で遅くまではしご酒に付き合っていたら、タクシーで帰るのでついて来るか?と言われ、何となく京王線沿線にあるご自宅に上がり込ませてもらった事があった。
西井さんの寝室兼書斎は驚くほど綺麗にセンス良く片づけられており、整頓された大量の本とともに目に付いたのは、古屋誠一の写真、では無くドローイングが飾ってあり、聞けばムンクだと言う。古屋さんが描いたのかと思いました。と、馬鹿な感想を述べると、似てるよねとおっしゃられた。
驚いたのは西井さんは家では一滴も飲まないのだと言う。あの明晰な文章はシラフで書かれているのか、と思うと妙に納得した。
翌朝、ご家族と一緒に緊張しながら食べたカレーがすごく美味しかった事を覚えています。おしまい。
宮沢豪 |