2023.6.20 - 7.2
牟田義仁 Muta yoshihito
Mの逗子宅
35mm digital カラーインクジェットプリント
127×178mm 〜 1030×1456mm 47枚
むたよしひと・略歴 >>
わりと長く付き合いのある知人から「亡くなった叔母の家を訳あって手放すことになった。人手に渡る前に記録写真を撮ってくれないか」と頼まれた。とても良くしてくださる方であり、とくだん理る理由もなかったので引き受けることにした。お宅は、京急逗子・葉山駅からすぐのところにあって、バス通りからほんの少しだけ奥まった所に位置しただけなのにとても静かだった。
伺った叔母 Mさんのお宅は、庭も建物も随分とくたびれていて、各部屋にある膨大なMさんの持ちものとともに長かったであろうその時間の経過を可視することができたような気がした。そうして記録撮影を進めるうちに、ふと個人的にも撮ってみたいという思が少しずつ萌した。
Mさんと海軍に居られたというMさんのお父様は、波瀾万丈といいますか結構いろいろとお有りになったご様子で、人よりもさぞかし重たい歴史をお持ちなのだろうと興味が湧いたのだけれども正直なところ、どうでもよかったのです。
切っ掛けが欲しかった。最近ずっと私は写真が撮れないでいた。カメラに触らない時間が長こと続いていた。少し焦ってもいた。だから、ただただ写真を撮る切っ掛けが欲しかった。なので縋るような気持ちでもあったのだ。でも、どうしてそこまで写真を撮らなければならないのだろうか。おそらく知らないうちに写真を撮らざるを得ない身体になっていってしまったのかもしれない。ゆったりとゆったりと私が気づかないうちに、病が進行していくかのように。気がついたときには手遅れだ。残念である。
まあ、つきあってみせるさ。
知人に感謝です。
月と金星
M宅を撮り終えたあとの帰りすがら、西の空には金星を追うようにして月があった。駅に向かう途中に空き地があって、そこで撮ってみることにした。まずは近くのコンビニに行って金麦のロング缶とトリスのポケット瓶購入。つまみなし。空き地に戻って撮影開始。露出時間はのべ1時間ほど。そのあいだに、ちょっこと酔って、ちょっことだけ幸せな気分。
地べたに座り込んで飲んでいて、三脚に据えられ西の空を向き30秒おきに規則正しくシャッターの音を刻んでいるカメラを見上げると、つくづく写真ってカメラが撮るんだなと思った。
牟田義仁 |