2024.12.10 - 12.22
島根径 Shimane kei
優しい人
35mm モノクロ
ゼラチンシルバープリント 11×14in. 19枚
しまねけい・略歴 >>
2010年8月、統合失調症を患っていた兄が実家のあったマンションから飛び降り自殺を図った。
その時、自分は自身初の個展に向けて暗室に入って作業をしている最中だった。
最後にかけた言葉はなんだったんだろうか。
心無いその一言が最後のトリガーになったのではないだろうか。
そんなたちきれない思いから逃げるように、街に出ては一心不乱にシャッターを切り、写真の世界に逃避、陶酔していった。
そんな暴力のようなモノの中から、写真になり得る何かをすくい出してもらい出来上がったのが、初の個展『DULL COLOR』だった。
自分の写真とは何か。自分の撮っているものが何か。
そんな問いを自分に投げかける度に14年前のこの日の事が思い出される。
両親が付けた『優』と言う名の通り、兄は優しくそして真面目な人だった。
弟の自分から見ると、それは少し窮屈に見えるくらい本当に真面目な人だった。
モヒカンにして音楽をやり、高校を中退して美容師になり、そして写真をやって。。
自分のやりたいことだけをやって、考えをハッキリ通してきた自分とは、兄は言うならば対角線上にいる真逆の人間だった。
あの日救急車に乗り込んで、朝方まで続いた手術を待ち、何とか一命を取り留めたという一報を聞いてから家に帰った。
そして酢酸の匂いが残る暗室から何故だかカメラを持ち出し写真を撮った。
もしかしたら、ここに確かにあった存在が無くなってしまうかもしれない。
そう思った時に、意識朦朧としながらもこれを残しておかなければ。
そんな風に思って写真を撮った。
しかし、結局現像こそしたものの、直後に撮った兄の写真はベタ焼きすら取れず14年そのままに放置してきた。
それが何故今だったのか。
決して整理が着いたからでもなければ、この思いが消えて薄まったからでも無い。
ただ、きっと今やらなければ一生やる事はなく、一生向き合うこともない。
そう思い今回展示をしようと思った。
果たしてこれが正しかったかどうかは未だにわからないが。。
兄はその後14年間、4度の転院を繰り返しながら、高次脳機能障害と統合失調症により、今も精神科の病棟に入院し続けている。
そして、その姿を今も会う度に撮影を続けている。
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